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連載小説 「壬之御門奇譚(おおいのみかど きたん)」 Act.1 #17

更新日/2023.03.31

そういうと先生さようならとまばらに声がぽつりぽつりと鳴るが突如の雷鳴とすべての音と現実から隔離するような豪雨によってかき消される。本日は晴天なり。朝見たその天気が急変してあたかもそんな話なぞはなから存在しないとでも言うようなどこか心の奥で恐怖を感じさせるほどの莫大な雨量になぜか視線を奪われて立ち尽くしてしまうものの、教室の外、教室を繋ぐ階段の下から聞こえる自分を呼ぶ声にはっとして急いで靴を履いて鞄を持って駆け降りて声の主を探しながら右往左往と視線を移動させる

「楓花さん」

左側へと顔を向けるとぺこりと礼をして手を優雅に小さく振る雅の姿があり急いで駆け寄って遅れてごめんなさいと少し上がった息を整えながら謝る

「謝ることはございません。本日はお疲れさまでした。気候がかなり変わっていますがお身体や体調は大丈夫ですか?雷鳴は怖くありませんか?」

「大丈夫です。ご心配ありがとうございます。」

「当然の事をした迄ですよ。何か辛いことや体調を崩しやすい季節などございましたらいつでも言ってくださいね…それではこれから寮に向いますが、宜しいでしょうか?」

鍵を出しながらどこか優しい雰囲気と柔らかい声色で顔を見ながら確認され正直とてつもなく緊張している自分でデザインして考えた理想がたくさん詰まった部屋に今から行くのだ。お菓子の家を目の前にした子供の様な気持ちと高揚感だった思わず口元がにやけてしまいそうになるのを必死に胸中で自分自身に問いかけて抑えて一息ついて光の中へと視界を戻す

 

「大丈夫です。お願いします」

 

「かしこまりました。それでは参りましょうか?」

頷いて手をすっと差し伸べた雅の手に手を重ねてお足もとにご注意くださいと言いながら楓花に歩幅を合わせてゆっくりと歩きながら来た方の廊下とはまた反対側の道へと向かいジグザクとしたかくかく曲がった木々の間の廊下を通る。雨で濡れているのもあって緑や自然の香りがむせ返るほどに香りどことなく幸せな気持ちになる

「これから向かう寮の名前は上弦堂と言い、楓花さんの部屋は一階の花筏という部屋になります。基本的に男女別途の寮で、学校から直接寮に帰るときは教室から降りて右側の廊下を進むとこの道に通じております。この廊下をずっとまっすぐ進み中庭を抜けていくと寮にたどり着きます。楓花さんは場所を覚えるのはお得意ですか?」

→→→ #18へ続く

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