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連載小説 「壬之御門奇譚(おおいのみかどきたん) (Act. 1)」  ♯1

更新日/2023.01.24

「拝啓、親愛なるこの手紙を受け取った貴方へ

  貴方は、国立壬之御門学院への入学を許可されたことをここに記します。」

 

唐突に送られてきたそれには、そう書いてあり自分の中では歓喜に近い感情が闇の中で一筋の光の様に刺してきたのだという感覚に近いものがあった。

 

国立壬之御門学院。日本で唯一の要塞都市の中にある全寮制の中高一貫校であり、日本一入学基準が厳しい学校。謎が多く入学願書を出願する際は郵便局に壬之御門学院宛と言って預ける為住所も要塞がどこにあるのかも謎であり、仮に要塞を見つけたとしても要塞に一般人が入ることは厳禁とされているため中や校内がどうなっているかも未知であり、文化祭や体験入学も一切ない学校。存在自体都市伝説なのではないかと言われる学校に自分が入学できるなんて夢のまた夢だと思っていたがそれが現実と化して瞬きが止まらずにや頭の整理が追い付かない状況で部屋の中をぐるぐると歩いて回っていると携帯が振動して手のひらから滑り落ちそうになるのを必死に受け止めて「非通知着信」と出た。画面に心臓が早まるものの通話のボタンを小刻みに震える指先でタップして恐る恐るスマホを耳に近づけて上ずりそうだが口を開く

「も、もしもし…」

「朝桐楓花さんで宜しいでしょうか?」

大人びたソプラノの様な風鈴の鈴の様な声で自分の名前が呼ばれる。何故この人は私の名前を知っているのだろうか?と多くの疑問が一瞬にして脳裏を遮って質問で脳内が覆いつくされて言葉がうまく出なくなる

「いきなり名前をお聞きするのは怪しまれてもおかしくありませんね、失礼いたしました。私壬之御門学院学校長をしております。神来社鏡花と申します。」

「が、学校長さんでしたか…すみません失礼しました…朝桐楓花本人です」

「ご確認ありがとうございます。本日ご連絡させて頂きましたのは、面接の件です」

その言葉一つで心臓が鷲掴みされた様な感覚になる。面接が苦手中の苦手でいつもここで躓いてしまうそれが悩みだったからだ。言ったこと練習したことが全て緊張でスポッと何もなかったかのようにいつも本番で大切な部分だけ抜け落ちてしまうのだ。

「め、め…面接…ですか?」

「もしかしてなのですが…面接が苦手ですか?」

「は、はい…苦手です練習してもいつもそれを忘れてしまうので」

「成程それは大変ですし練習したことが発揮できずにその努力が無碍になることは避けなければなりませんね…ご安心ください。わが校は志望動機や入学してから頑張りたいことは一切聞きませんし練習は不要です。」

頭の中があれほど質問に満ちていたのに空になって真っ白になる。意味が解らないからだ例外中の例外すぎる。思考も何もかも追い付かなくて普通なら逆に不安になるはずなのに安心してしまう自分がいて奇妙すぎてその点で不安になってしまう

「あ、あの…練習は不要とはどういうことなのでしょうか?」

「我が校の面接は通常の入試で行われている物とは全くの別物になります。練習に時間を費やしそれで素の状態が見えなくなるのは避けたいのです。我々が一番大切にするのは入学してくる方々の素の姿なのです。面接日ですが、一か月後の3月9日になります。」

「あ、ありがとうございます。了解しました。」

何故かとてつもなく安心したと同時にとてつもない幸福感に包まれた。何故かは理解できないが恐怖を覚えるほどの幸せだった。緊張は気づけば消えていて震えも止まっていた

「当日はご自宅で待っていてください。我々が迎えに行きますので」

「む、迎えにですか?ありがとうございます」

「お礼には及びませんよ…何か質問はございますか?」

「あ、あの…私は幸せな学校生活を送ることはできるのでしょうか?」

 

幸せな学校生活。それは私がずっと望んでいた、願っていたものだった。

小学校なんていい思い出はなく。周りにだれかいたわけでもない。いつも一緒にいるのは文字が大量に書かれた机だけで人なんて寄り付かなかったし自分から勇気を出しても逆に目立って皆離れていくだけだった。それでも何故か通っていたのは宛もない期待をしていた自分がどこかにいるからで理由なんてなかった。ただ行くだけそれだけ

希望も幸せも無縁だった。それでも何故か通い続けたのはなぜなのか自分でも理解していないし理由を自分に問い詰めてもわかっていない。正直こんな質問が自分の口から出てくると思ってもいなかったし正直自分自身の行動に驚いているしこれで嫌われるのか、どういった反応が返ってくるのかわからないし正直今は面接の怖さよりもそっちの恐怖のほうが勝っている。できることならば叶うのならば言葉だけでなく実態として叶って欲しい

それが、儚い小娘の願いだったとしても

 

 

「正直わかりません。ただ来て後悔はないと思っています。我が校は正直普通の学校とは違います。コミュニケーションを一番に考える学校です。故に悩み事は皆で解決していきます。誰一人見捨てないし誰一人辛い思いはさせません。それだけはお約束します。皆が楽しく幸せになれる学校。それが我が壬之御門学園です。貴方の幸せに近づけるように我々が全力で支えてサポートします。」

今まで見つからなかったパズルのピースが見つかった様な気分だった。心の靄が晴れる気分だった。ずっと欲しかった、かけてほしかった言葉だった。ここなら大丈夫そう思ったと同時に少しの不安もあるが実現できるだろうと思った。視界がぼやけて熱くなったのを無理やり唇を噛んで誤魔化そうとするもののかえって声が震える。

「ありがとう…ございます」

「それでは、3月9日にお会いできるのを楽しみにしています。」

ありがとうございました。失礼します。というと電話を切る。嬉しさと初めて見る希望に心が震えて緊張の糸が切れたかのように目から深海ができたかのように絶え間なく流れ落ちている筈なのに口元は幸せからか口元が弧を描くという状況になっている。水を掬えどもそれが止まることはなく絶え間なく波のように雨のように流れ落ち。いつの間にか夢路を彷徨っていた。

 

この日、私は初めて生きていてよかった。そう思えたのだ。

 

 → ♯2へ続く

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